この間、「口内の健康が身体の健康につながる」というニュースを見かけたんですけど、口の病気が身体に影響を与えたりするんですか?
実は、口内と身体は密接に関係しているのです。
口内を不健康なままにしておくと、身体にいろいろな悪影響を及ぼしてしまいます。
口内の不健康が、身体にまで影響を与えるなんて考えたことありませんでした。
たとえば、多くの人が患っている歯周病もそのままにしておくと、さまざまな病気につながるといった研究結果が出ているんですよ。
今回は、歯周病がどのような病気と関連があるのか見ていきましょう。
もはや日本の国民病とも言われる「歯周病」。30歳以上の成人の約80パーセントが患っているというデータがあり、誰がなってもおかしくない病気といえます。
また、歯周病は「サイレント・ディジーズ」と呼ばれるほど自覚症状が少ないことも特徴です。そのため、本人の気付かないうちに症状が進行してしまっていることもあるのです。
最悪の場合、歯が抜け落ちるだけでなく、口内から全身へと毒が周り、さまざまな疾患のリスクを高めてしまうのが歯周病の怖いところです。
歯周病がどのような病気と関連があるのか、さっそくみていきましょう。
メタボリックシンドロームとは、内臓のまわりに過剰に脂肪が蓄積しており、かつ脂質異常や高血圧、高血糖のいずれか2つ以上を併せもった状態を指します。生活習慣が原因と考えられてきたメタボリックシンドロームですが、歯周病との関係性も近年指摘されはじめています。
ある研究では、歯周病がある人はメタボリックシンドロームの兆候が数年後に出てくる割合が高かったようです。歯周病菌から発生する毒素で肥満が進行するだけでなく、脂肪の増加で分泌される「アディポカイン」が歯周病を悪化させる関係にあるとの報告もあります。
アディポカインとは、脂肪細胞から分泌される生理活性タンパク質を総称のことだよ!
また、メタボリックシンドロームになるとリスクの高まる糖尿病ですが、糖尿病と歯周病との間にも関係性があります。
慢性的に歯周病が続くと、歯周病菌から発生する毒素や炎症性反応物質が血管を通し、全身に送られていき、そこで、筋肉細胞や脂肪細胞に作用して、糖の代謝を妨げたり、膵臓でつくられるインスリンの働きを弱めます。
インスリンは血中の糖の濃度を下げる性質を持ったホルモンで、糖尿病において重要な役割を持っています。このインスリンの働きが弱くなることで糖尿病になりやすくなります。また、糖尿病にかかっていると、感染に抵抗する力も下がってしまいます。そのため、口内の細菌が増殖してしまい、歯周病も悪化していく負のスパイラルに陥ってしまうのです。
より詳しく歯周病と糖尿病の関係性を知りたい方はこちらをご覧ください。
先の項目でも紹介したように、慢性的に歯周病が続いていくと、歯周病菌が血管内に入り込んでいきます。そして、血管内に入り込んだ歯周病菌は、当然ながら、血液の循環を通じて心臓にも到達していきます。
心臓に到達した歯周病菌が、心臓の膜や弁に取り付き感染を起こすと、心内膜炎を起こします。心臓の弁に障害がある人、人工の弁が入っている人は特に注意が必要です。どうしても血液の流れが悪くなってしまっている以上、歯周病菌が増殖しやすい環境にあるのです。
感染性心膜炎で亡くなった方の多くが心臓から歯周病菌が検出されたことから、歯周病と細菌性心内膜炎が関係していると考えられています。
動脈硬化の原因は、遺伝や脂質異常症、高血圧などと考えられていますが、最近の研究ではやはり歯周病との関連が指摘されています。
動脈に流れた歯周病菌やその毒素が、血管内の細胞を傷つけてしまうのです。それによって、動脈硬化を誘導する物質が出て、血管内に沈着物ができてしまいます。
その沈着物が剥がれて血の塊がでてしまうと、脳梗塞や心筋梗塞、狭心症の原因になるのです。
実際に、歯周病の人はそうでない人に比べて、2.8倍も脳梗塞になりやすいというデータもあります。
要介護者など、食べ物を飲み込むことに困難が伴う方は、口腔内に細菌が多いと、食べ物を間違えて、気管や肺に飲み込んでしまった時に、細菌も同時に気管や肺に入り込んでいって、肺炎の原因となります。これを誤嚥性肺炎と言います。
誤嚥性肺炎の原因の細菌の多くは歯周病菌であると言われています。誤嚥性肺炎の予防のためには歯周病の予防が欠かせません。
歯周病を患っていると、ウイルス性の病気にもかかりやすくなることがわかっています。例えば、インフルエンザや世界的に大流行している新型コロナウイルスなどです。
インフルエンザウイルスの感染拡大にはプロテアーゼやノイラミニダーゼと呼ばれる酵素が関わっています。
プロテアーゼというタンパク質を分解する酵素の働きを利用して、鼻や喉などの気道の粘膜に付着し、細胞内に侵入したインフルエンザウイルスは、ノイラミニダーゼというたんぱく質を溶かす酵素の働きで細胞外に放出されて、増殖して感染を拡大します。
抗インフルエンザ薬として有名なタミフルといった、インフルエンザウイルスに直接作用するわけではなく、このノイラミニダーゼの働きを抑えてインフルエンザウイルスを細胞内に閉じ込めることで感染が広がるのを防ぐ薬なのです。
虫歯や歯周病を放置していると細菌が増殖し、その中には、インフルエンザウイルスの感染を促してしまうプロテアーゼやノイラミニダーゼを出す細菌が含まれているのです。
口腔が不健康な状態であると、これらの酵素の量が多く、インフルエンザが発症しやすく重症化しやすくなります。
新型コロナウイルスについても同様です。歯周病菌が口の中に大量にある状態が続くと、ウイルスをブロックしていた酵素を溶かしてしまい、ウイルスの体内への侵入を手助けしてしまうのです。
いかがだったでしょうか。口内を綺麗にしておくことの重要性がおわかりいただけたと思います。歯周病は治療も可能な病気です。なにより日々の予防が最も大事なのは言うまでもありません。
イギリスのある実験では、歯周病がメンタルの不調を招いているのではとの研究結果もあるほどです。全身への健康から精神への健康にまで影響が出ると思うと、歯から健康を守る大切さがわかるのではないでしょうか。
監修
市ヶ谷コンシェル歯科クリニック
澤谷祐大(さわたに ゆうた)
獨協医科大学医学部歯科口腔外科にて研鑽を積み、2023年より市ヶ谷コンシェル歯科クリニックにて勤務。大学病院に行ってと言われた親知らず、どんな親知らず抜歯でも、市ヶ谷コンシェル歯科クリニック澤谷にお任せ下さい。
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