「サイレント・ディジーズ(沈黙する病)」と呼ばれる歯周病。痛みなどの自覚症状が少ないまま取り返しのつかないところまで進行してしまうことからそのように呼ばれます。
「歯磨きをしているときに、歯茎から血が出る」「歯茎がいつも腫れている」「歯茎が痛い」そんな症状が出ている方は要注意です。もしかしたら知らず知らずのうちに歯周病が進行してしまっているかもしれません。
しかし、歯周病が悪化していくとどうなるのか、そもそも歯周病がどういうものなのか知らないという方は多いのではないでしょうか。この記事では「歯周病の基礎知識」を歯のコンシェルジュであるくま先生が紹介していきます。
目次
歯周病とは、細菌の感染によって歯茎が炎症し、出血してしまう病気です。
進行すると、歯の周りの歯茎や歯を支えている骨が溶けてしまい、最終的には膿が出たり、歯が抜け落ちていきます。それだけでなく、全身に深刻な影響が及んで行きます。
全身にまで影響を及ぼす歯周病ですが、その理由は「歯磨きがちゃんとできていないから」です。
歯磨きがしっかりできていないと細菌の塊である歯垢が歯と歯茎の間に付着し続けてしまい、その溝に溜まっていきます。これがそのまま放置されると、細菌が毒素を出して歯茎が炎症を起こします。
歯周病予防の歯磨きとして、歯と歯茎の隙間を柔らかいブラシで歯周ポケットから45度傾けて磨くのがコツです。
表面、裏面を45度、咬合面を90度で当てて、歯茎を傷つけないよう毛先が潰れない程度の圧力で磨きましょう。ゴシゴシと強く歯茎を磨いてしまうと、歯茎が下がる原因となります。
鉛筆を持つように歯ブラシをつかむと、余計な力が入らないのでお勧めです。また、歯と歯の間に溜まったプラークは、歯磨きをするだけでは落としづらい部分ですので、フロスで除去しましょう!
さらに詳しく正しい歯の磨き方について気になる方はこちらの記事をご覧ください。
悪化することで歯を失うことになる歯周病には、段階があります。
初期段階は歯肉炎と呼び、歯茎に炎症が起こるのみで痛みなどの自覚症状はほとんどありません。
歯肉炎が進行すると軽度歯周炎になり、歯茎の境目から出血が見られます。歯磨きをしている時に、出血をする人はこの状態に当てはまります。
さらに症状が進行した中度歯周炎では、痛みを伴い、歯磨きができなくなります。歯磨きによって口の中を綺麗にできないため、さらに症状が悪化することが考えられます。
そして、最終的には重度歯周炎になり、炎症が歯茎を形成している内部の骨まで到達し、骨を溶かし始めます。やがて歯がぐらつきはじめ、歯が抜けてしまうことも。
こうして、進行が進んだ歯周病は、膿が出て口臭がひどくなったり、歯茎の位置が下がって、歯が長くなるように見えたりと見た目までも変化していきます。
歯周病が怖いといわれている理由は、単に口の中だけで症状がとどまらないためです。炎症が続くと、毒性物質が歯周病菌などの細菌から排出され、歯肉から全身に入り、さまざまな病気を引き起こし悪化させます。代表的なものをいくつ紹介します。
歯周病による炎症で生じる物質が血糖値を下げるインスリンの機能を低下させ、糖尿病を悪化させることがあります。また糖尿病患者はそもそも歯周病になりやすく、その進行も早いなど、歯周病と糖尿病は相互に関係しています。歯周病を直すことで、糖尿病の症状が良くなることもあるので、糖尿病患者の方は歯周病に気をつけてください。
動脈硬化によって心臓に血液を送る血管が狭くなったり塞がってしまう病気ですが、歯周病が原因で、動脈硬化を誘発したり、血液の通り道を細くしたりします。
食べ物が食道ではなく気管や肺に入り込んでしまったことで生じる肺炎です。歯周病が進行していると、歯周病菌が食べ物と一緒に肺に入り込み感染してしまい、肺炎となることがあります。
妊娠している女性が歯周病になってしまった場合は、低体重児および早産の危険度が高くなることが指摘されています。その原因は血液中に入ってしまった歯周病菌だといわれています。
この他にも歯周病は様々な病気を引き起こすとされています。詳しく知りたい方は、こちらの記事も合わせてご覧ください。
歯周病になっていないか、以下の項目を参考に、自分でチェックして見てください。
1.歯磨きの時に歯茎から血が出る
2.朝起きた時、口の中が粘つく
3.口臭が気になる
4.歯肉が赤く腫れている
5.歯が長くなった気がする
6.歯肉から膿が出る
7.歯肉が痛い、むず痒い
8.硬いものが痛くて食べづらい
この項目の中からいくつかが当てはまった場合、歯周病になっている可能性があります。早めの治療が大切ですので、当てはまった方は歯科医院に相談してみてください。
歯周病治療は主に以下の手順で行われます。
1, 歯周病検査
ペリオプローブという器具を使い、歯周ポケットの深さを測っていきます。測るときに少しチクチクとした痛みがあります。この時、出血や膿が出た場合は、歯周病が進行しているサインです。歯周ポケットの深さが3㎜以下であれば正常、4-5㎜が軽度の歯周病、6-7㎜が中等度の歯周病、8㎜以上が重度といわれています。歯周ポケットが深くなればなるほど歯周病が進行しています。
2, スケーリング
歯茎から上の歯石を「超音波スケーラー」と呼ばれる器具で除去します。歯茎から上の部分の歯石を超音波スケーラーと呼ばれる専門の器具で除去していきます。超音波スケーラーは、超音波を発生させることで歯にこびりついた歯石を除去してくれる器具です。
3, 最低1週間空けてから、再度歯周病検査をする
再度、歯周病検査を行い、まだ歯周ポケットが3mm以上であれば、SRP治療を進めていきます。軽度の場合、スケーリング治療を行ったあと、お家でもしっかりとホームケアをしていただくことで歯茎が引き締まり、症状が改善することがあります。
4, SRP治療(ルートプレーニング)
SRP治療は主に、歯茎の中(歯周ポケット)の歯石を取り除いていく治療となります。
一歯ずつ丁寧に、歯茎の中にこびりついた汚れを除去していきますので、1回の治療で約20~30分程度かかります。それを4~6回に分けて治療を行っていきます。
この時、使用するのは「キュレット」と呼ばれる器具です。歯周ポケット内の歯石を除去し、かつ歯根部を滑らかにすることで、プラークを付着させづらくします。
歯周病は進行しているほど、出血や痛みが生じやすくなります。
また、進行度合いによって、歯周ポケットの奥の方まで操作していきますので、痛みが予想される場合はあらかじめ麻酔を行ってから、治療を進めていきます。
歯周ポケットが深く、歯石の量も多い方は、治療後にしばらく痛みや違和感が生じる場合があります。
また、冷たい飲み物や食べ物を口にすると歯がしみる「知覚過敏」という症状が一時的に起こる場合もありますが、たいてい治療後1~3時間程度、長くても数日間程度で症状が治まることがほとんどです。
そのような症状が起こっている間は、患部を刺激しないよう、柔らかめの歯ブラシで歯を磨くようにしましょう。
何歳からでも始められる歯科矯正治療ですが、一つ条件があるのをご存じでしょうか?
それは、「歯茎や歯槽骨(しそうこつ)が健康」であること。歯科矯正は、歯根と歯槽骨の間にある「歯根膜」に負荷をかけることで歯を動かすことができます。そのため、土台である歯茎が健康であることが重要なんです。
歯科矯正をスムーズに始めるためにも、日頃からしっかりと口腔ケアをして歯の健康を保ちましょう。
スケーリングやSRP治療を行った後、歯と歯の間に隙間ができて見えることがあります。隙間が黒い三角形のように見えることから「ブラックトライアングル」と名付けられています。
歯が削れてしまったのではないか、、と心配される方もいらっしゃるかもしれませんが、スケーリングやSRP治療(ルートプレーニング)が原因で生じたわけではありません。
主に歯周病が原因で、歯茎が退縮することにより生じてしまう「ブラックトライアングル」。しかし、歯茎に炎症ができて歯茎が腫れている状態だと、良くも悪くもブラックトライアングルの症状が目立たないんです。
ただし、そのまま放っておくと最悪、歯が抜け落ちてしまう可能性もありますので、治療は絶対に必要です。
そうして、スケーリングやSRP治療を行い、歯茎が引き締まることで、もともと加齢や歯周病によって生じていたブラックトライアングルが目立つようになってしまう、、というわけなんです。
また、ブラックトライアングルがあると、食べかすが歯に詰まりやすくなってしまいます。食べかすが詰まった状態が続くとプラークが繁殖しますので、むし歯や歯周病の悪化につながります。
そうならないためにも、少なくても夜には毎日フロスを使用して、歯と歯の間に溜まった汚れを取り除きましょう。
また、審美面的にもブラックトライアングルが気になる、、という方は
・コンポジットレジン
・ストリッピング(IPR)
・ダイレクトボンディング
・ラミネートべニア
の治療がお勧めです。
この治療法について、さらに詳しく知りたい方はこちらの記事もご参照ください。
歯周病は細菌によって引き起こされる感染症ではありますが、日々の歯磨き、つまり生活習慣によってコントロールできるものです。食生活も含め、改めて、正しい歯磨きを学び、歯周病を防ぎましょう。
アルコールやタバコも歯周病の原因となるといわれています。栄養バランスに気を付け、禁煙を始めてみるのもいいかもしれません。
歯周病は30歳以上の成人の約80%が罹患しているといわれています。進行が進めば、歯を失うだけでなく、死に至る病の原因にまでもなってしまう可能性があるなどそのおそろしさはよくわかっていただけたのではないかと思います。
ですが、早い段階で適切な治療を行うことで、歯茎が引き締まっていきます。治療が終了した後も、3か月に1度のペースで定期的に歯科医師や歯科衛生士による専門の機械でのケアを行い、ご自身でもしっかりとプラークコントロールしていただくことが非常に重要となります。
正しい歯磨きをして、口の中を綺麗に保ち続けることで、虫歯もなく歯周病もない口内環境を作りあげていきたいですね。
監修
市ヶ谷コンシェル歯科クリニック
澤谷祐大(さわたに ゆうた)
獨協医科大学医学部歯科口腔外科にて研鑽を積み、2023年より市ヶ谷コンシェル歯科クリニックにて勤務。大学病院に行ってと言われた親知らず、どんな親知らず抜歯でも、市ヶ谷コンシェル歯科クリニック澤谷にお任せ下さい。
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